「AQUA CITY」杉山清貴&オメガトライブ夏の終わりのファーストアルバム
AQUA CITY
杉山清貴&オメガトライブ
1983.9.
いつもと違う街にいました。
文化祭で知り合った音楽好きの仲間と会うために訪れた街です。
レコード店に寄ろうという話になって、ふらりと入ると真っ青なポスター。
壁、レジの周り、もしかすると天井近くまで、あれ何枚くらいあったんだろう。
同じポスターが、ずらり。
圧巻でした。
いままでそういう景色は記憶にないかも。
もちろんレコード店なので、新譜のポスターが貼られるのはいつものこと。
人気アイドル、人気バンド、アーティストのジャケット写真や、ブロマイドのようなポスターたち。
でも、真っ青なポスターはトロピカルな色と写真で街の風景だけ。
歌手もバンドも、まったく姿が映っていません。
まるで旅行センターに入ったかのような印象です。
ポスターに目を奪われました。
手書きのPOPだったのか。あるいは宣伝用のシールだったのか。読みました。
「AQUA CITY S.Kiyotaka & OMEGA TRIBE」
そしてロゴ。
ほぼ一瞬です。魅了されてしまったんだと思います。
杉山清貴&オメガトライブは、知っていました。
デビュー曲「SUMMER SUSPICION」が夏休みの間にジワジワとヒットチャートを上昇中。
キーボードが印象的な楽曲で、声がスカーンと通り抜けていくイメージがあって、ギターソロではツインギターの掛け合い風なメロディも印象的。
ラジオでよく流れていて聴いていたので知っています。
#
「こういうの好きでしょ?」
と、一緒にいた仲間の一人が私に言いました。
「うん。いいね」
「だと思った。買っちゃえば」
「欲しいけどアルバムは高いよムリ」
「えー。いまならほらあのポスターもらえるよ!?」
「いいね欲しいけど」
「お金ないの?」
「あってもキツイっていうか」
「ねえねえあのさみんな、ちょっとちょっときてきて」
「どしたん」
「あー?なんか見つけた」
「みんなでプレゼントしましょうよ」
「あ?誰、誕生日」
「じゃないけど似たような感じ。あれ。みんなで出し合って買おうよ」
「いやいやちょっとそれは」と私が言うと、
「いいよ。みんなで聴こう」
「さあすぴしょーん♪の人だよね?私も聴きたい」
「決まりね」
「え。いやちょっと」
ひとりづつ、数百円。
喫茶店で飲むコーヒーくらいの金額。
私も出しました。
ああ。こんなふうに買うこともできるんだ。
と、妙に納得してしまいました。
「実を言うと私の姉貴があんなふうに友達同士で買ってるんだよ。みんなで聴いてる。
で、いちばん好きな人が持つことにしてるの」
レコードとポスターは私が受け取り、アルバムはみんなで順番に聴いていきました。
小遣いは限られていたけれど、仲間たちと喫茶店でコーヒーを飲むくらいは持ち合わせていて、みんなで出し合って買って聴く。音楽。
潮の香りが感じられる街で、「AQUA CITY」と出会った秋の日でした。
AQUA CITY
S.Kiyotaka & OMEGA TRIBE
1983.9.
アルバムがリリースされてしばらくして、セカンドシングルも出ます。
それが「ASPHALT LADY」です。
written by 水瀬次郎
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